外国で特許を取ろうとすると、多額の費用がかかります。金額は場合によりけりですが(国の数、内外の代理人の選択、翻訳費用の高低その他)、ひとことでいえば何百万円オーダーです。中小・ベンチャー企業にとってはたいへんな出費ですが、社運を賭けたビジネスともなれば、外国特許なんてわが社には縁のない話と片付けてしまってよいかお悩みの経営者もいらっしゃるように思います。
このような悩みに対する救済策の一つが、官公庁、自治体をはじめとする公的機関の助成金です。助成金事業にはいろいろありますが、例えば特許、商標等の外国出願については東京都知的財産総合センターの外国出願費用助成事業がよく知られています。今年度(平成29年度)はすでに第2回目の受付期間がまもなく終了します(12月15日まで)が、来年度以降も継続して実施されることが期待できます。
この事業の助成限度額は300万円、助成率は1/2以内です。仮に外国出願のために500万円の費用がかかったとすると、助成を受けられる金額は最大250万円となります。出費がかさむPCT出願の手数料や外国出願料等のいわゆる印紙代、弁理士費用、翻訳料等が助成の対象になります。
この事業の注目すべき特徴は、助成対象となる期間の長さです。平成29年度の例では、契約と支出が平成29年4月1日から平成31年11月30日までの2年8か月の期間に行われた費用が対象になります。
PCT出願の指定国の国内手続へ移行する期限は、おおもとの(優先権主張の基礎とする)日本出願の日から30か月(2年6か月)後ですから、タイミングを上手に合わせれば、PCT出願から国内移行までの費用がカバーされ、その負担が最大で半減します(移行手続から先の中間処理等の費用は助成対象外です。)。しかし同じような助成金でも、単年度予算の制約のため助成期間が限られるものもあるので、PCTのように足の長い手続では慎重な見極めが必要です。
例えば特許庁が各地の指定期間を通じて実施する外国出願支援事業では、応募して採択されてから助成期間の終了まで4か月しかありません。この事業を利用する場合は、ちょうどその助成期間に合わせて出費のかさむ翻訳や外国特許庁への出願(または指定国移行)ができるように、予定を組んでおく必要があります。PCTの制度を使わずに意中の外国へ直接に出願する場合はまだ予定が立てやすいかもしれませんが、PCTの場合は優先日から指定国移行まで2年半の期間をフルに使うとして、助成期間が終了する時期の2年半前(前々年またはその前の年)に国内出願して、同じく1年半前にPCT出願をしてというステップを踏んでくる必要があります。翻訳の期間を詰めたり、外国の弁理士への支払も早々に済ませたりと、いろいろ手間のかかる処理が必要です。
助成金制度は(外国出願向けに限らず)、対象に選ばれたならば(正確にいうと、対象事業をつつがなく完了して初めて)返さないでもよいおカネを受け取ることのできるたいへんありがたいものですが、事前の申請、助成期間中の多数の帳票の管理、事後の報告義務等の作業負荷を無視できません。つまり、利息の支払いはおろか元金の返済すらいらないかわりに手間がかかるという形のコストが発生します。
かける手間をむだにしないためには、PCTの場合は3年越しの計画を立てておかなければなりません。PCTではなく外国へ直接のルートを取るとしても、前年からの計画が必要です。もとにした国内出願について早期審査請求を行い、助成金の申請時点で特許査定の見通しがついていれば、計画を立てる上で大きな助けになります。