生産性向上特別措置法案(以下、特措法)の2本目の柱は、経産省が旗を振る「コネクテッド・インダストリーズ」政策の一環で、「革新的データ産業活用」と名付けられています。この政策は、ドイツ発の第4次産業革命(Industrie 4.0)の日本版で、データの利活用(いわゆるビッグデータを念頭に置いたもの)を進めて従来にない付加価値を生み出せる産業構造を作り出そうとするものです。この政策を中小企業にも浸透させるため、平成29年度補正予算の「ものづくり補助金」に新タイプ(企業間データ連携型)が設けられたことを以前にご紹介しました。特措法の2本目の柱も、同じ政策意図の反映と理解されます。
「革新的データ産業活用」の仕組みを見ましょう。データを活用した斬新なビジネスを展開しようと考える事業者は、その計画を主務大臣(当該事業分野を所轄する省の大臣)に提出して、認定を求めます(特措法22条)。法律上、ビジネスの具体的な分野に関する規定は見当たらないので、どんな産業分野であっても「データの革新的な活用」が図られていると認められれば認定の対象になります。といっても基準が曖昧ですが、実際には前稿でも紹介した内閣府の委員会(革新的事業活動評価委員会)で専門家の意見を聴いて判断されることが考えられます。
事業者の範囲に特に制限はないので、中小企業でも大企業でも適用対象になります。計画には、目標、内容、実施時期、資金計画等を含むことが求められていますが、書式等は所轄の省令でそれぞれ定められるようです。認定を受けた事業者は、次のような優遇措置を得られます(中小企業だけの措置も含まれる)。
(1) 革新的データ産業活用のための機械やソフトウェア等への投資に、課税の特例(租税特別措置法)が適用される(29条)。
(2) 中小企業信用保険法に定める信用保証額の上限につき、革新的データ産業活用に関わる分とその他の分を別枠で設けることができる(24条)。
(3) 革新的データ産業活用のための社債発行及び資金借入れに中小企業基盤整備機構の債務保証を得られる(25条)。
(4) 革新的データ産業活用のうちデータを収集整理して他の事業者にデータ提供(「特定革新的データ産業活用」という)を行う者は、国や公共機関の保有するデータの提供を求めることができる(26条)。
特措法の3本目の柱は、中小企業の設備投資に対する固定資産税の減免措置です。市町村が作成して経産大臣が同意した先端設備等の導入促進基本計画に基づいて設備導入を図る中小企業者は、市町村に導入計画を提出して認定を受けることができます(40条)。ここでいう「先端設備等」とは、「従来の処理量に比して大量の情報の処理を可能とする技術その他の先端的な技術を活用した施設、設備、機器、装置又はプログラムであって、早急な導入が中小企業者の生産性の向上に不可欠なもの」と定義され、より具体的には経産省令で定められます。導入計画が認定されると、中小企業信用保険法の信用保証額の上限引き上げ、地方税法に定める固定資産税の減免等の優遇措置を得られます。
コネクテッド・インダストリーズ政策は、いわゆるビッグデータの時代にあって、複数の企業間のデータ流通を含むデータ活用を通して生産性を向上させ従来にない付加価値を生むことを目的としています。AIやIoTについては、話題先行で技術的ベースがはっきりしない議論が横行しがちで、国の政策といえども冷静な評価が必要ですが、じょうずにブームに乗れば優遇措置を受けられる可能性も無視しない方がよさそうです。