データの利活用の促進等を目的とした「生産性向上特別措置法案」及び「産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」が、去る5月16日に参議院で可決され、成立しました。一般紙やTVではほとんど報道されていませんが、第4次産業革命に関連した中小企業の振興策(だけではないが)という意味では重要なニュースのひとつです。

生産性向上特別措置法案は、次の3本の柱からなっています。
(1) 新しい技術やビジネスモデルについて早期の社会実証を可能とする特例的な規制緩和の制度の創設(プロジェクト型サンドボックス制度)
(2) データ収集・活用の計画に国の認定を受けた事業者に対する減税等の優遇措置
(3) 情報処理の先端的設備導入の計画に市町村の認定を受けた事業者に対する減税等の優遇措置

各項目の中身を見ていく前に、この特措法の基本的な考え方をおさらいしておきましょう。第1条(目的)によれば、世界的な情報技術の革新が急速に進む中にあって、国際競争力の低下を防ぐためにデータ活用等による生産性向上の施策を集中的に講ずるという趣旨が述べられています。情報技術の革新といえば、最近のバズワードとしておなじみの「第4次産業革命」、「IoT」、「AI」等が連想されます。対象を「情報技術」の分野に絞って「国際競争力の低下を食い止める」という守りの姿勢を表明したところが目を引きますが、情報技術をツールとして活用する必要性はすでにあらゆる産業分野に共通の課題ですから、情報技術そのものに関わる製品やサービス以外の業種にとっても無関係ではないといえるでしょう。

続いて第3条の「基本理念」では、守りの姿勢の背景にある危機意識と共に、その危機を克服するため短期集中型の施策遂行を図る旨が述べられています。短期集中型であることから、この特措法は施行日から3年以内に廃止される時限的なものです(附則2条)。つまり、近々にデータ活用を通じた生産性向上のための設備投資等の計画があれば、制度の内容を把握して「使えるものがあれば使う」ことが望まれます。

3本柱の第1は、「プロジェクト型サンドボックス制度」です。サンドボックスとは聞きなれないカタカナ語ですが、元の意味は箱に砂を入れて幼児が遊べるようにしたミニ砂場(sandbox)で、「一定の範囲を区切りその中で好きなことができるようにする」意味を表すもののようです。最近のわかりやすい例では、自動運転車を公道で走らせたり、ドローンを飛ばしたり、ある程度以上の電力で無線送信したりするのに、それぞれクリアしなければならない規制を緩めること等が思い浮かびます。

この制度がどんな仕組みで運用されるかを見ましょう。革新的な技術の事業化を目指して実証を行いたいが規制が妨げになると考える事業者は、その事業分野を所轄する主務大臣に新技術等実証計画を提出する(特措法11条1項)と共に、「規制の特例措置」を整備するよう求めることができます(特措法9条1項)。主務大臣は、内閣府に置かれる委員会(革新的事業活動評価委員会、特措法31条)の意見を聞いたうえで特例措置の可否を判断し、かつ、要件を満たすと判断した実証計画を認定します。革新的な技術(特措法の用語では「新技術等」)や実証(同じく「新技術等実証」)の定義は特措法2条に挙げられていますが、事業者が計画の認定や特例措置の整備を求めた個別分野の技術が革新的といえるかどうかも委員会の意見に含まれることが考えられます。

実証計画には、その目標、内容、期間と場所、参加者の範囲、資金計画、(必要があれば)規制の特例措置の内容等を記載することが求められます(特措法11条3項)。記載や提出手続の細則は主務省令に委任されており、省庁間でバラバラになる可能性もあります。この制度を利用する可能性がある事業者は、所轄の省庁はどこか、実証を妨げる規制があるか、どんな省令が発行されるか等の点に注意が必要です。(この項続く)