第4次産業革命を構成する柱の一つはIoT(Internet Of Things)と呼ばれる情報通信技術(ICT)で、「モノのインターネット」と訳されることがあります。これは、従来のインターネットが主に末端のパソコンやスマートフォンをヒトが使って入出力するデータをネット経由でやりとりする形の使われ方であったのに対して、モノに取り付けられたセンサや制御回路がインターネットの末端に接続されてデータの入出力とネット経由のやりとりを行う点に注目した呼び方だと理解されます。
たしかに民生品や家電の分野では、従来は離れた場所から操作したり機器の状態をモニターしたりする(遠隔監視制御)ことは、テレビやエアコンのリモコン等を除けば一般的とはいえませんでした。しかし、多くの産業機器や公的サービスの分野では、第一線で作動する装置を遠く離れた制御室から監視制御するシステムはごく一般的です。第一線の装置と制御室の間は、システムごとに各種の無線や有線のリンクで結ばれます。
今日では、そのようなリンクをインターネットに置き換えることができる、というのは至極もっともな発想に思えますが、選択肢はインターネットだけとは限らないでしょう。生産や事業活動にICTを活用する目的は、IoTという時流にマッチしたシステムの導入をうたい文句にすることではなく、生産や事業活動の場が広がったために生じる空間的・時間的な距離を縮めて生産性を高めることにあります。生産や事業活動の範囲が相当に広くてインターネットに代わる選択肢が見当たらない場合を除き、その範囲の広さに応じた選択肢を検討することが必要でしょう。
とはいえ、IoTという語には時代の最先端というイメージができているので、IoTの看板をかかげた講演会や展示会・商談会が各地で盛況です。3月に都下で、「IoTで課題解決」をサブタイトルにした比較的小規模な展示会を参観する機会があり、例えば次のようなツールが展示されていたのでご紹介します。
(1)生産進捗表示ツール:部品等の工場で生産ラインの各所にスイッチボックスを置き、部品1点ごとにそこでの工程を終える都度、作業者が「1台生産終了」のスイッチを押す。スイッチ押下の情報は近距離無線を介して(伝搬距離は30m程度まで)ゲートウェイ装置に送られ、生産ラインの各所ごとの実績台数を予定台数と共にパソコンのモニター上に表示する。さらにウェブ経由で遠隔監視も可能である。
このツールは、数十m単位で各所ごとに掲示される生産進捗板の情報を、1カ所で集中監視できるようにするものです。作業者が手で押したスイッチの情報を近距離無線でゲートウェイまで届けるというシステムなので、「モノのインターネット」とはいえませんが、数十m単位でバラバラに置かれた生産進捗板を1カ所でまとめて見たい、という課題には応えてくれそうです。
(2)作業分析ツール:倉庫の作業スタッフが作業分析用のアプリをインストールしたスマートフォンを持ち、作業の項目を選んで開始する都度、アプリ上で該当の作業項目をタップする。作業項目の履歴と項目ごとの作業時間の情報がウェブ上のサーバに蓄積され、管理者のデータ端末で分析レポート等を閲覧することができる。
このツールは、各作業者に持たせるスマートフォンがセンサとして機能します。監視対象と管理者を結ぶリンクはインターネットですが、ヒトの操作が情報源なので、細かいことをいうと「モノ」のインターネットには入りません。
(3)装置稼働状況の遠隔監視ツール:現場で作動する装置の監視制御パネルの正面にカメラを取り付け、撮像データをLAN経由でサーバに送る。スタッフはデータ端末からインターネット経由でサーバにアクセスして、撮像データを確認する。撮像したうちの文字データに対するOCR機能や、ランプの表示色(例えば緑と赤)の識別機能等を持つ。
このツールのセンサはカメラです。撮像データが人手によらずにウェブ経由でスタッフに送られるので、原データの取り方が少々アナログっぽい点はさておき、IoTの形になっています。