平成29年度補正予算のものづくり補助金で新しく登場した「企業間データ連携型」は、ドイツ発のインダストリー4.0(第4次産業革命と訳される)に触発された我が国の産業政策(Connected Industries)の中小企業版といえそうです。その概念についてはいやというほど多量の情報がネット上に溢れていますが、ごくごくかいつまんでいえば、インターネットにつなぐ先をミクロの製品・部品や末端のサービスのレベルまで拡張し、互いにつなげた先どうしの空間的(場合によっては時間的)な距離をサイバー空間で大幅に縮められれば生産や経済活動の効率を飛躍的に高めることができるだろう、ということだと理解されます。
ものづくり補助金の「企業間データ連携型」は、複数の企業どうしが互いに「つながって」イノベーションに結びつけるビジネスプランであることが応募の要件になっており、採用されれば3分の2の補助率が得られる等の、従来から補助対象である単一企業の新規ビジネスプランよりも手厚い支援を期待できます。そうすると、無理してでも他社とのアライアンスで「つなげる」形に持って行きたくなるのが人情です。しかし、「つなげる」ことは目的ではなく手段のひとつですから、べつに他社とつながなくても、生産や経済活動の要素どうしの空間的・時間的距離を縮めて効率を高めるビジネスプランだってあるはずです。その立場からは、イノベーション達成というゴールへの道筋がいく通りも考えられる中にあって、官の選んだ道筋だけ道幅を広げて通りやすくしようとするのは、いかにも日本の官庁的な発想に思えます。
それはさておき、第4次産業革命のファクターとして最近いやというほど目や耳にするキーワードが、よくご存じの通り、「モノのインターネット」すなわちInternet of things(略してIoT)、ビッグデータ、それに人工知能(Artificial intelligence、略してAI)です。これらの概念レベルの解説もまたネット上に溢れかえっているので、いまさらではありますが、要は次のような話です。すなわち、先に述べたようなインターネットのつなぎ先に置いたセンサが拾ったデータを集めて(これが途方もないサイズだからビッグデータという)、ビッグデータの処理を人手で(道具としてコンピュータを使うとしても)行うのはたいへんだから機械(つまりAI)に任せる、という次第です。なおビッグデータの処理というのは、とってきたデータ自体を分類したり特徴をとらえたりすることのほか、将来の予測にも使えるようにすることを含みます。
中小企業の経営者・管理者の皆さんにとっても、これらのキーワードに接する機会は最近とみにふえているでしょうし、また上に述べた程度の理解は既にお持ちかもしれません。ネット上には、概念レベルの解説記事だけでなく、「将来は多くの仕事がAIにとって代わられて人間の仕事がなくなってしまう」というセンセーショナル調の記事も充満しています。一方で中小企業のIT導入というのは、俯瞰的に見れば第4次産業革命どころか、電話・FAXに代わる受発注業務のIT基盤の共通化(共通EDI:electronic data interchange)が主要なテーマのひとつである段階です。多くの中小企業者にとっては、IoTやAIなど遠い世界の話のように思えるかもしれませんし、ネットを探してもマクロ的な概念かセンセーションか、又はその対極で専門家の高度に学術的な(特にAIに関しては数学を多用した)情報ばかりが目に付いて、縁遠く感じられるのではないでしょうか。
しかしながら、第4次産業革命という語に象徴される産業界の一大変化は、中小企業にとっても間違いなくやって来るでしょう。それは、新興国に激しく追い上げられている先進国がこれからも生き延びるには(とりわけ日本のように急ピッチで少子高齢化が進んでいればなおさら)避けて通れないからです。(この項続く)