1.商標Bの拒絶査定と不服審判
前回取り上げたもう一つの商標「からだにうれしい」(商標Bとします)の登録出願(商願2003-56426)もまた、特許庁の審査において拒絶査定を受けています。拒絶理由は、指定商品である食品(米、穀物の加工品、サンドイッチ、ハンバーガー、べんとう、他)が『身体のためにありがたい』等の意味合いを呼び起こすキャッチフレーズだから、商標法3条1項6号該当というものです。商標Aの場合と同じです。
ところが、商標Bについても拒絶査定不服審判(2004-14298)が請求された結果、商標Aの場合とは逆に拒絶査定を取り消して登録を認めるという審決がされました。商標Aの場合と、何が違うのでしょうか。
商標B「からだにうれしい」の拒絶査定不服審判の審決によれば、「商標Bがただちにキャッチフレーズであるとはいえない」とあります。その根拠は、審決公報だけではわかりません。また審決は、「指定商品(30類:米、穀物の加工品、サンドイッチ、ハンバーガー、べんとう、他)の業界で、商標Bがキャッチフレーズ(広告文句)として普通に使用されているとまではいえない」とも指摘しています。

2.商標Aと商標Bの分かれ目
商標A「おなかにおいしい」の審決理由は、商標Aがキャッチフレーズ(宣伝文句)であるかどうかには言及せず、商標Aの語句が世の中でも食品業界でも「おなかに好ましい」という程度の意味でごく普通に用いられていることをいくつかの例と共に述べています。要は、一種の比喩的表現として世間でも業界でも普通に使われている言葉だからダメ、というリクツです。
商標B「からだにうれしい」の審決理由は、「キャッチフレーズではない」とも、「業界で普通に使われていない」とも断定していません。その意味では、いわばグレーゾーン的な扱いです。グレーゾーンにあるならば拒絶理由に該当するといえないので登録、というロジックです。しかし、商標Aと商標Bのそれぞれのケースを並べてみると、どうにもわかりにくいとの感を拭えません。

3.審査基準の改訂
このようなケースに関連する商標審査基準の改訂版(第12版)が、平成28年4月から施行されました(なお、商標審査基準は他の観点からその翌年にもさらに改訂され、第13版になっています。)。
その中の商標法3条1項6号の審査基準のうち、いわゆるキャッチフレーズに関連する内容は、旧版に比べてかなり大幅に変わりました。対象となるのは、「宣伝広告又は企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標」とされています。これが旧版における「キャッチフレーズ」に相当します。骨子は、「宣伝広告又は企業理念・経営方針等を表示する」種類のものであっても、「造語等としても認識できる場合には」3条1項6号に該当しない(これを理由として拒絶することはしない)というもので、「キャッチフレーズは×」という単純な判断はやめますということのようです。
審査基準は、マークが宣伝広告以外の意味合いを認識させる(もしそうならば非該当)か否か、また企業理念・経営方針等以外の意味合いを認識させる(もしそうならば非該当)か否かの指針となる事情について例を挙げています。
しかしながら、所詮はヒトの主観に基づいてケースバイケースで判断されることに違いはなさそうです(改訂審査基準に照らせば、商標Aと商標Bの結論の違いを説明できるとも思えないので。)。この種のキャッチフレーズ的に用いる短い言葉を商標登録しようとするには、審判まで持ち込んで時間とコストをかけることをいとわない姿勢が求められるように思われます。