2月1日に国の平成29年度補正予算が成立したのを受けて、この予算による経済産業省の事業の概要が公表されました。中小企業にとって注目の「ものづくり補助金」は、総額1,000億円の規模で含まれています。「ものづくり補助金」の公募要領や時期に関する詳細は未公表ですが、おそらく年度内に応募締め切りの短期決戦が予想されます。経産省の政策的意図を理解(または少なくとも推察)しておくことは、応募書類の作成に当たって無駄ではないように考えますので、本稿で概観してみます。

経産省の平成29年度補正予算事業は、大別すると5本の柱(人づくり革命、生産性革命、災害対策(熊本地震復旧)、防災・減災、日欧EPA及びTPP11)に分かれます。このうち「生産性革命」のテーマに総額2,000億円強を当て、「ものづくり補助金」(正式名は「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業 」)が第一位で1,000億円、第二位は「サービス等生産性向上IT導入支援事業」(500億円)、第三位は「小規模事業者支援パッケージ事業」(120億円)の順です。

その他の事業項目を眺めると、エネルギー・環境関連(4項目)の合計が208億円、情報通信技術関連(AI、IoT、データ共有等の6項目)の合計が69億円、その他(地域振興、事業承継、グローバル化加速等の5項目)の合計が約170億円となっています。分野横断的な「ものづくり補助金」以外の分野別では、情報通信技術関連が「サービス等生産性向上IT導入支援事業」とそれ以外の6項目を合わせて569億円と最大であり、エネルギー・環境関連がそれに続く形になっています。分野別の予算配分は、経産省の政策意図(どの分野に力を入れるのか)をある程度反映したものと考えてもよいかもしれません。

昨今の情報通信技術分野の話題は、AI、IoT、ビッグデータ等に集中しています。個別の業界や企業で、これらの技術の活用が進められたり検討されたりしていますが、国の政策レベルでは、2017年3月のドイツ情報通信見本市における安倍首相のスピーチで提唱された”Connected Industries”のコンセプトに集約されると考えられます。このコンセプトは、様々な業種、企業、人、機械、データなどがネットワークを介してつながり、AI等によって新たな付加価値や製品・サービスの創出や生産性の向上を図るものと説明されています。その効果として、高齢化、人手不足、環境・エネルギー制約などの社会課題の解決、産業競争力の強化及び国民生活の向上・国民経済の健全な発展を期待するものとなっています。

このコンセプトは、ドイツ政府が2010年代初めに提唱して推進中の” Industries 4.0″(製造業の生産・流通工程の大幅なデジタル化に基づく生産性向上のプロジェクト)に触発されて後追い的に構想された世界主要国の国家プロジェクトの日本版のようです。コンセプトをもう少し具体化したものが、2017年10月に経産省から「東京イニシアティブ2017」と題して公表され、その冒頭に次の5つの重点取り組み分野が挙げられています。
(1) 自動走行・モビリティサービス
(2) ものづくり・ロボティクス
(3) バイオ・素材
(4) プラント・インフラ保安
(5) スマートライフ
各分野の名称はいくぶん抽象的な(特に(5))カタカナ文字だらけですが、イメージは何となく伝わるといえましょうか(後に続く説明を読まないと誤解のおそれはありますが)。さらに分野横断的な政策として、
(a) リアルデータの共有・利活用
(b) データ活用に向けた基盤整備
(c) さらなる展開(国際、ベンチャー、地域・中小企業)
が続きます。リアルデータというのは、生産、流通をはじめとする実体的な経済活動の様々な場面において収集されるデータぐらいの意味と受け取れます。その共有・利活用とは、データが一次取得者から他者に提供されて流通し利用されることを述べており、そのような場面での法的なデータ保護の制度を不正競争防止法に組み入れる改正が準備されていることは前稿の通りです。

平成29年度補正予算の「ものづくり補助金」では、補助対象の事業の一つとして「企業間データ活用型」と名付けられた新顔が登場しました。このタイプが、もの補助版”Connected Industries”であろうと推察されます(この項続く)。