機械や電気・電子分野の中小企業は、自ら完成品ビジネスを手がける場合よりも、部品、モジュール、加工外注等々の形で部分の仕事を受ける場合が多いと思います。部品の独立性が高くて完成品のありようにあまり左右されないならば、完成品のトレンドにそれほど気を使う必要はありません。例えばかつてのパソコンにおけるMPUのインテル、OSのマイクロソフトは、部分の立場から逆に完成品であるパソコンの市場で支配的な立場に立ったほどでした。

しかし、二つ折り型携帯電話のアンテナや、ヒンジ機構のような部品のビジネスは、完成品のトレンドにもろに影響されます。特許の出願費用はおろか、着想からシミュレーション、実装設計、試作品の性能評価までかけた開発費が無駄な出費に終わることもまれではありません。2020年代を目前にした現代では、自動車産業がEV化の大波に洗われています。自動車はいうまでもなく日本の基幹産業であり、完成車メーカーから部品メーカーまで多層化され広大なすそ野が広がっています。世界市場でリーダー的地位にある日本の完成車メーカーはEV化に向けて体制を整えつつありますが、広大なすそ野を支える部品メーカー(特に中小企業)もこれから正念場を迎えることになりそうです。

携帯電話に話を戻すと、二つ折り型の時代には全体のハウジングがひたすら小さく、薄く、軽いことが重視されました(いまのスマートフォンではむしろ大型化(大画面化)がトレンドのように見受けられるのは、時代の変化を感じさせます。)。設計・開発段階では、小さく狭いハウジングの中で多数の部品がいわば場所取り合戦の挙句、それぞれのレイアウトが決められます。その中で、アンテナやその他の受動部品には、どちらかといえば能動部品の配置が決まった後に残っているスペースを割り当てられるというのが多かったかもしれません(相対的に見て発熱が小さいなどの理由はありますが)。

二つ折り型の時代には、携帯電話に限らず、アンテナの性能は無線機器の全体としての性能を左右するほど重要で、しかもサイズやレイアウトに大きく影響されました(今日では、アンテナと後続のシステムやネットワーク全体の間の性能配分によって、事情が変化しているかもしれませんが。)。しかしレイアウトの決定では必ずしもそれにふさわしい扱いを受けていなかったので、技術者は逆にその悪条件を克服しようと発明に努力をし、そしてその成果は二つ折り型の退潮と歩みを共にしたという次第です。

この例に限らず、「部品」を担当する部署や外注を引き受ける企業(中小企業のケースが多い)は、発注元企業の完成品ビジネスが市場のトレンドの影響をどの程度受けやすいものか、「部品」の設計が完成品のありようにどの程度左右されるか、そして自身が受け持つ「部品」が全体の中でどういう位置づけにありどの程度の発言力を持つのか(全体の設計にどの程度影響を及ぼせるか)、見きわめることが重要に思われます。

「部品」の受け持ち手(特に外注先の立場)であっても、費用の負担を伴う開発を求められることがありますが、その際のリスクの取り方には要注意です。完成品がトレンドに影響されやすい商品であればなおさら、その開発にどの程度意味があり、どの程度のリターンを期待することができるか、見極めが重要になります。知財に関連付けて発注元の大企業と外注先の中小企業の関係を考えるとき、発注元が外注先に開発させた知財の権利を独り占めするというTVドラマ的構図が意識されがちですが、中小企業にとってはそれよりも、そもそも開発に参加する意味があるか事前によく考えることの方が重要という場合もありそうです。

以下は、携帯電話の話題に絡んだ蛇足です。携帯画面の左上に電波の強度を示す数本の縦線マーク(アンテナピクトといったりします。)が表示されていますが、これが「アンテナの感度を表す。」と書いてある特許の明細書は少なくありません。もちろんこれは(ごく初歩的な)誤りで、正しくは、「その携帯電話の位置における受信電界強度を表す(つまり自分の性能ではなく周りの環境を測った結果を示している。)。」です。特許の明細書といっても、技術的に正確な表現がされているものばかりではないようです。