携帯電話の形状・構造の移り変わり
携帯電話の形状・構造がどのように移り変わってきたかを思い起こしてみると(話を日本国内に限ります。)、黎明期の自動車電話の時代には片手では持てないほどのサイズと重量がありましたが、手のひらに収まるサイズになってからは、
(1)ストレート型(上部に表示画面、下部に操作キーを配置。)
(2)二つ折り型(折りたたみ型、クラムシェル(貝殻)型など、いくつか呼び方がある。ヒンジを介して折りたためるようにつないだ2つのハウジングの一方に表示画面、他方に操作キーを配置。いわゆるガラケーの主流。)
(3)スライド型(2つのハウジングが相互にスライドして開閉ができる。)
(4)ストレート型(表示画面がほぼ全面を占めるスマートフォン)
のように移り変わってきました(二つ折り型は今でも使われています。)。

携帯アンテナの変遷
昔のストレート型や初期の二つ折り型のアンテナは棒状の伸縮式のもので、ハウジングの外から見える頭の部分をつまんで引き出しながら伸ばせるようになっていました。二つ折り型が主流になってからしばらくして、アンテナを内蔵したものが増えてきます。そうすると、ハウジング構造の複雑さを克服したり逆に利用したりするアンテナや携帯電話の発明がいろいろ出てきました。その後の二つ折り型ガラケー対ストレート型スマートフォンのビジネス面の盛衰は、ご承知の通りです。このテーマから、技術と知財とビジネスの関係を少し考えてみたいと思います。

二つ折り携帯のアンテナ
どんな無線装置であっても、アンテナは最も重要な構成要素の一つです。ところが、携帯電話のように小さくて薄いハウジングにいろいろな機能部品を詰め込む必要があるときは、アンテナの配置場所というのはどうしても後回しになりがちのようです。国内市場でフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)が全盛の時代、ハウジング構造は二つ折りが主流でした。そこで、スペースが足りない中でも二つ折り構造ならではの部品をアンテナとして使ったり、アンテナに対する二つ折り構造の問題(悪い影響)を改善したり、二つ折り構造の特徴を積極的に活用したりする発明がいろいろ生まれました。

どんなアンテナが考えられたか
例えばこんな発明があります。二つ折り構造特有のスペースといえば、ヒンジの部分です。二つ折り構造では、ヒンジによって二つのハウジングをつなぎ、かつ、それらがヒンジ(その中のシャフト)を軸として互いに回転するようにして、折りたたんだり開いたりできるようにしています。シャフトを金属製にして高周波信号をつなぐと、シャフトがアンテナとして働きます。これは、二つ折り構造ならではの部品をアンテナとして使う例です。
一方、シャフトにはスプリングが取り付けられています。これは、二つ折り構造を閉じた状態に安定させ、開くとき手に若干の抵抗を感じさせるためです。スプリングの材料は金属のためアンテナに近づけると電磁的に影響し、開閉に伴って形が変わるためその影響の度合いが変化します。これをなるべく避けたいので、金属と樹脂をつないでシャフトを形成し、樹脂側にスプリングを持ってくるという構造をとります。これは、二つ折り構造の問題を改善する例です。

二つ折り携帯のアンテナ特許その後
この発明は2007年に出願され、1年4か月ほどで特許として登録されています。登録までの期間が普通よりも短いのは早期審査請求がされたためと考えられ、ビジネス面や技術面で重視されていたことがうかがわれます。しかし、登録から3年後には年金不納のため権利が消滅しています。これはビジネス上の方針転換によると考えられ、大企業ではとくに珍しいことではありません。
しかし1件の特許出願を登録まで持っていくには、ふつうなら50万円超の費用がかかります。仮に出願人が中小・ベンチャーだとすれば、これは看過できない数字です。因みに、上に挙げた発明が出願された2007年は、iphoneの初号機が登場した年です。