中小・ベンチャー企業が日々直面する課題は、技術上のものだけではなく、経営のさまざまな側面に関わっています。技術上の課題は、特許の明細書でいう「解決しようとする課題」であって、ベンチャーを立ち上げた契機や会社を引っ張っていくモチベーションにつながります。これに対して経営上の課題は、資金繰り、営業活動・販路開拓、財務・経理、人事・労務管理、…と多岐にわたり、かつ、頭の痛いことばかりです。

そういう本業以外の経営課題のアウトソーシング先が、税理士、社会保険労務士、司法書士、法律上の厄介な話の相談先である弁護士、等々の、それぞれに専門性の高い士業です。大企業ならば、この手の仕事を専門にする部署があって、そのような職種をスタッフと呼びます。これに対して本業に取り組む部署やその職種を、ラインと呼びます。知的財産(知財)の関連業務も、多くの場合はスタッフの仕事に位置付けられています。

技術志向の中小・ベンチャーは、人数が限られているし、なにも給与計算や税務処理がしたくて起業したわけでもないので、スタッフ的業務を外注したりその道の専門家に相談したりするのは自然なことです。これに対して技術士は技術の専門家ですから、いくら「技術」経営といっても、経営上の課題の相談相手になれるのか疑問に思われるかもしれません。

技術士は、資格試験に合格して初めて登録を認められます。試験では筆記と面接において、技術知識だけでなく実務経験に基づく課題解決能力を鋭く問われます。つまり技術士の資格は、その人が確かな実務経験を積んできた技術者だということを、厳しい試験を通して証明してくれます。もちろん、技術士の資格を持たなくても優れた技術コンサルタントだという人はいますが、その実力のほどはお付き合いしてみないとわからないものです。

技術士が積んできた実務経験とは、専門分野の技術知識をベースにして事業やプロジェクトを実行し、しかもその中で指導的な立場、まとめる立場、顧客に責任を負う立場を背負ってきたといえるものです。つまり純然たる技術だけではなく、技術営業、契約、資金、設備、工程、労務・安全管理、損益など、事業やプロジェクトを取り巻くさまざまな課題に取り組んできた積み重ねが、技術士の実務経験です。これは、技術を具体的な製品やビジネスに結び付けるうえで強い味方になってくれます。

人的リソースが十分でない中小・ベンチャー企業が、スタッフ的業務をそれぞれの分野の士業専門家に頼るのはごく当然のことですが、技術の中身と密接に関わる課題についてまでスタッフ的専門家に頼ることはできません。特に起業直後や新規事業の立ち上げ時のように、技術シーズをなんとか事業のレベルに持っていこうとするとき悪戦苦闘するさまざまな課題を全体として見渡し、経営者や現場の従業員といっしょになって考えてくれる専門家を見つけるのは容易ではありません。技術士は、そのような場合の一つの有力な答えです。

知財も多くの場合スタッフ業務に位置付けられますが、他のスタッフ業務と同じように専門性を求められるだけでなく、技術とのかかわりもより密接です。ただし、ひとくちに知財の専門家といっても、出願したり権利をとったりするための制度や手続には詳しくても、得られた権利を事業に生かし利益を生むことに無関心、又は不案内である可能性もあります。知財(とくに特許)ではいうまでもなく、手続や制度は手段であり、権利を生かして得る利益(社会的には、産業の発展)が目的として重要です。したがって相談相手としては、技術実務と知財の両方に精通した専門家や、技術実務の専門家とのコラボ体制を整えた知財の専門家を選ぶことがたいせつです。