人口減少に直面して国内市場の行き詰まり感が徐々に高まるなか、企業規模の大小によらず、事業の海外展開が重視されています。事業の競争戦略上欠かせない特許や商標をはじめとする知財の海外での権利化といえば、従来はもっぱら大企業が取組むものとされてきた感がありますが、こんにちでは中小・ベンチャー企業でも検討すべきテーマに挙がってきました。

どの国・地域で権利化を図るかは、製品、サービス、市場等の条件により千差万別ですが、先進国市場をめざすならばふつう米国を外せません。その米国では、2013年の特許法改正で「先発明主義」に代表される従来の独特な制度が取り払われ、特許制度の「世界的調和」に向けて歩みを進めたかに見えました。

ところが最近の米国の特許審査や訴訟では、「適格性」という問題がクローズアップされています。例えば、ソフトウェアや数学的手法の応用を要素に含む場合には、大なり小なり「特許として適切か(適格性を有するか)?」を判断されるというのです。日本や欧州でも発明の内容によっては検討されることがあるとはいえ、その突っ込みの程度は現在の米国の比ではありません。日本出願をベースに米国出願する場合、この問題は高い壁になることがあります。しばらく、このテーマについて考えてみたいと思います。

特許制度は、新しい技術的な着想(発明という。)を公開した個人や企業に対して、国が一定期間にわたりその発明を実施する独占的な権利を与えるものです。独占権をインセンティブとしてすぐれた発明が生まれ、産業の発展に役立つことを狙いとしています。特許制度は国ごとにそれぞれ定められていますが、上記のような制度の根底にある考え方は、各国におおむね共通するように思われます。しかし、なんらかの技術的な着想が「独占権を与えるにふさわしい」発明であるか否か、の基準や個別事件での判断は、国による違いが問題になることがあります。とくに近年の米国において、この問題が大きくクローズアップされています。

ひところ(90年代後半から2000年代初め)、「ビジネスモデル特許」なるものがはやった時期がありました。おもに、金融や商取引の決済をコンピュータやネットワーク上で自動化する類のアイディアの特許が話題になりました。それまで人手で取り扱われ、又は人と人の間で処理されてきたビジネスモデルをコンピュータ上で扱うようにしたことが特許に値するのか(又は、そもそも発明といえるのか)という議論が、当時からありました。

こんにちの「特許適格性」の問題は、その延長線上にあるということもできますが、問題はより広範囲で複雑になっています。「特許適格性」を問われる範囲が、いわゆるビジネスモデルにとどまらず、広くコンピュータソフトウェアに関するものや、数学的な手法を応用するものへ拡大されてしまったからです。結果として多くの混乱を生じ、出願人・権利者にとって無用のコスト増大を招いています。

上記のように、このテーマには比較的長期に及ぶ背景がありますが、2014年6月の米国最高裁判決(一方の当事者(特許権者)の企業名に由来して「Alice判決」と呼ばれる。)を契機として米国特許商標庁(USPTO)がガイドライン(審査の指針)を策定しました。しかしその後の複数の裁判例の方向性がばらついたこともあってガイドラインは一貫性を欠き、審査官は個々の出願に対して混乱した拒絶理由を通知し、出願人(と代理人)はその通知に対応するためコストとエネルギーの浪費を迫られるという事態に直面しています。