1.どんな商標なら登録されるか?
商標登録について、「こういう文言(ことば、語句)は商標登録を受けられるだろうか」という趣旨のご質問をよく受けます。簡単にいってしまうと、造語(辞書に載っていない言葉)や、特徴のあるロゴ、シンボル等の図形商標は登録されやすく、ありふれた言葉やその組み合わせは登録されにくいという答えになります。
広告宣伝には、ごく短い体言止めの言葉やシンボルだけでなく、短くても叙述文形式をとる表現(「標語」、「キャッチフレーズ」、「キャッチコピー」等と呼ばれる)もよく用いられます。特許庁の2015年度までの審査基準では、キャッチフレーズは商標登録できないと明記されていました。しかし、当時でも判断が微妙に分かれたケースがあったようです。例えば、「おなかにおいしい」(商願平06-117847、指定商品30類:コーヒー、サンドイッチ、アイスクリームのもと、他)は審判まで行ったものの拒絶され、「からだにうれしい」(商願2003-56426、指定商品30類:米、ぎょうざ、サンドイッチ、べんとう、他)は拒絶査定が審判で覆されて登録されました。
2.商標の登録要件
商標法の3条は1項各号(1号から5号)で商標登録の要件を挙げ、指定商品・サービスの普通名称、慣用名称、品質・効能・産地等の表示、ありふれた名前やシンボルの登録を認めないことを規定しています。1項6号ではそれらを総括して、他と違う提供者の商品・サービスであることを認識させない商標は登録できないことを定めています。2015年度までの商標審査基準にはキャッチフレーズが3条1項6号に該当すると書いてあるので、「おなかにおいしい」(以下、商標Aという。)も「からだにうれしい」(以下、商標Bという。)も拒絶されそうに見えます。
3.商標Aの拒絶査定
商標A「おなかにおいしい」の登録出願(商願平06-117847)は、特許庁の審査において拒絶査定を受けています。拒絶理由は、この商標は指定商品である食品(肉製品、加工水産物、乳製品、他)が「おいしく、かつ、おなかにも優しい」というような意味を表すという内容です。要するに商品の特徴をうたった宣伝文句(キャッチフレーズ)であって、誰か(正確に特定されない場合を含む)が製造販売している商品だとうかがわせるわけではないということです。まさしく、商標法3条1項6号の当時の審査基準に則った判断です。出願人は、拒絶査定を不服として特許庁に審判を請求しました。
4.商標Aの拒絶査定不服審判
拒絶査定不服審判では審判官(審査官とは別)が拒絶査定の是非を判断し、結論(審決)が審査と同じ場合も異なる場合もあります。本件の審判(平10-709)では、結局のところ拒絶査定が支持され、審判請求は成り立たないものとされました。審決の理由では、「おいしい」という語が「都合がよい」とか「好ましい」とかいう意味に解釈できることをいろいろな刊行物(辞書、新聞記事等)の記載に基づいて示しており、商標法3条1項6号該当という結論は査定と同じです。
当時の審査基準では商標Aがキャッチフレーズだから登録できない、となれば、商標Bも登録の見込みはなさそうですが、さて...(この項続く。)